DIG社会保険労務士法人の社労士ブログ

2025.10.30

「給与のデジタル払い」―企業が注意すべき労務リスクとは

こんにちは!福岡市にありますDIG社会保険労務士法人(旧:社会保険労務士法人アーリークロス)です。
今回は、「『給与のデジタル払い』―企業が注意すべき労務リスクとは」について解説いたします。

2023年4月より、労働基準法施行規則の改正により「資金移動業者口座への賃金支払い」、いわゆる給与のデジタル払いが解禁されました。
これにより、企業は従業員の同意を得たうえで、厚生労働省が指定する資金移動業者(「〇〇ペイ」等の名称のキャッシュレス決済事業者)を通じて賃金を支払うことが可能になりました。

キャッシュレス化が進む中で、給与のデジタル払いについて興味を持つ企業は多いと思いますが、導入にはいくつかの注意点があり、労務管理上のリスクにも気を配る必要があります。

給与のデジタル払いとは?

賃金支払いは「賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」というのが大原則です。
これまで、例外として銀行口座振込等が認められてきましたが、改正により、一定の条件を満たす「資金移動業者の口座」も支払先として認められました。

導入時の前提条件

●労働者本人の同意を得ること
書面や電子的な方法で、労働者の自由な意思に基づく同意が必要です。強制はNGです!

●厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者を利用すること
安全性・資金保全体制を備えた業者のみが対象です。指定を受けていない業者を利用することはできません。

●就業規則・賃金規程に明記すること
給与の支払い方法について、「デジタル払い」を新たに追加する場合は、就業規則の変更や労使協定の締結が必要です。

●口座の上限は100万円まで
デジタル払いに使用する口座の残高上限額は100万円とされています。上限に達するとデジタル払いで給与を受け取ることができず、別の口座を指定するか、現金や銀行振込にて受け取る必要があります。

実際の普及状況は?

制度がスタートしてから2年以上が経ちましたが、現時点では普及はまだまだ限定的です。
給与等の支払い方法についての直近の調査において、賃金のデジタル払いを採用している企業は、全体のわずか0.3%にとどまっています。(厚生労働省「令和6年度賃金のデジタル払いに関するニーズ調査調査報告書」による)
制度自体は始まったばかりで、“これから”の仕組みという段階です。
導入に向けての検討は進みつつも、企業・労働者ともに慎重な姿勢が見られます。

企業が注意すべき労務リスク

導入を検討する際は、次のようなリスクに十分注意が必要です。

(1)同意取得の不備
労働者の自由な意思による同意が大前提です。
説明が不十分だったり、同意の記録を残していなかった場合、後から「同意していない」とトラブルになるおそれがあります。
同意書の保存や説明文書の整備を忘れずに行うことが非常に重要です!

(2)支払いの遅延リスク
資金移動業者のシステム障害などで支払日に振込が完了しない場合、原因が業者側であっても、企業が賃金支払い義務を負います。
トラブル時の代替手段(銀行振込など)をあらかじめ決めておくことが重要です。

(3)資金保全リスク
制度上、資金保全措置(保証・供託など)は義務化されていますが、実際にトラブルが起きた際にどこまで補償されるかは不明確な部分もあります。
企業としては、指定業者の信頼性を確認しておくことが欠かせません。

(4)給与関連事務の複雑化
デジタル払いを導入すると、銀行振込との併用で給与計算や帳簿管理が複雑になる可能性が高いです。
システム連携のミスや給与計算の誤りが起こるリスクもあるため、運用体制の見直しが必要です。

導入のメリット

とはいえ、デジタル払いには次のようなメリットもあります。
・振込手数料などのコスト削減
・即時入金によるスピーディーな支払い
・銀行口座を持たない外国人労働者や若年層への対応

「デジタル払い」には、企業にとっては「新しい選択肢」としての価値があり、今後の制度整備や指定業者の拡大次第では、導入が一気に進む可能性もあります。
まずは、一部の従業員や特定部門で試験的に導入するなど、段階的な運用が現実的かもしれません。

おわりに

給与のデジタル払いは、キャッシュレス社会に向けた新しい取り組みとして注目されています。
しかし、法的な枠組みや運用ルールを正しく理解しないまま導入すると、思わぬトラブルを招くこともあります。

現状ではまだ利用企業も少なく、「まずは情報収集から」という段階の会社が多いと思います。
導入を検討する際は、労働者への丁寧な説明と同意取得、運用体制の整備を欠かさないことが重要です。
DIG社会保険労務士法人では、制度導入に向けたルール整備や就業規則の改定など、企業の実情に合わせたサポートを行いますので、お気軽にご相談ください。

お読みいただきありがとうございました。

ご相談・ご依頼はお気軽にDIG社会保険労務士法人までお願いいたします!

【参考サイト】
令和6年度賃金のデジタル払いに関するニーズ調査https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chinginseido_00002.html

資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html

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